重要アップデート|2025 年 AHA/ACC 高血圧ガイドラインが公開!新たに追加された 11 の推奨は、すべての高血圧患者に関係します
高血圧の診療に携わる医療者にとっても、日々血圧と向き合っている患者さんにとっても、見逃せないニュースがあります。それが、2025 年版の AHA/ACC 高血圧ガイドラインの公開です。
まず押さえておきたいのが、ガイドラインに頻出する「COR(Class of Recommendation:推奨クラス)」という考え方です。COR 1 は「強く推奨(エビデンスが十分で、基本的に優先して従うべき)」、COR 2a は「中等度の推奨(エビデンスが比較的しっかりしており、状況に応じて積極的に検討)」、COR 3(有害)は「推奨されず、場合によっては害となり得る介入」を意味します。
(1)二次性高血圧:スクリーニング範囲を広げ、見逃しと誤診を減らす
高血圧と聞くと、多くの人が「本態性(一次性)高血圧」を思い浮かべますが、中には他の病気が原因で血圧が上がっている「二次性高血圧」も存在します。代表例が原発性アルドステロン症です。こうした原因があるタイプでは、原因を特定して治療することで、薬だけに頼るよりも良好なコントロールが期待できます。
1.COR 1(強い推奨):成人の治療抵抗性高血圧患者(複数の降圧薬を服用しても血圧が十分に下がらないケース)では、低カリウム血症の有無にかかわらず、原発性アルドステロン症のスクリーニングを行うべきとされています。これにより、見逃されていた症例が拾い上げられ、より適切な治療につなげることができます。
(2)原発性アルドステロン症:スクリーニング前に、降圧薬をやみくもに中止しない
2.COR 1(強い推奨):原発性アルドステロン症のスクリーニング適応がある成人では、初回スクリーニング前に「ほとんどの降圧薬は継続」することが推奨されています。例外として、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)のみ中止が必要です。これにより、不要な中止による血圧悪化や検査の遅れを防ぎつつ、スクリーニング結果の信頼性を確保できます。
(3)生活習慣介入:塩の「質」を変えることも、血圧コントロールの一手に
生活習慣の見直しは、これまでも高血圧管理の土台とされてきました。今回のガイドラインでは、特に「家庭での塩の使い方」に関して、より具体的な推奨が示されています。
3.COR 2a(中等度の推奨):高血圧の有無を問わず、成人がカリウム含有の塩代替品(いわゆる減塩・カリウム塩)を使用することは、血圧上昇や高血圧の予防・改善に役立つ可能性があります。とくに、日常の塩分摂取の多くを「家庭での調理・味付け」に依存している人に適した選択肢です。ただし、慢性腎臓病(CKD)を有する人や、カリウム排泄を低下させる薬剤(例:一部の利尿薬など)を服用している人では、高カリウム血症のリスクに十分注意し、定期的な検査を行う必要があります。
(4)急性脳出血:血圧は「低ければ低いほど良い」わけではない
急性期の脳出血患者における血圧管理は、これまでも臨床の難所でした。血圧を下げすぎると脳灌流が保てなくなり、逆に高すぎれば再出血や浮腫のリスクが高まります。今回のガイドラインでは、そのバランスを取るための明確な目標範囲が提示されました。
4.COR 2a(中等度の推奨):成人の急性自発性脳出血患者で、入院時の収縮期血圧(SBP)が 150〜220mmHg の場合、SBP を速やかに 130〜<140mmHg まで下げ、その状態を少なくとも 7 日間維持することが推奨されています。これにより、機能予後(退院後の生活機能)を改善できる可能性があります。一方、SBP がすでに 130mmHg 未満の症例では、さらに降圧薬を追加することは推奨されません。過度な降圧は、かえって脳の血流を損なうおそれがあるためです。
(5)妊娠高血圧:母体と胎児を守るための 3 つの重要な推奨
妊娠中の高血圧は、母体だけでなく胎児の安全にも直接関わる重要なテーマです。今回のガイドラインでは、妊娠関連高血圧に対して 3 つの新しい推奨が追加されました。
5.COR 1(強い推奨):妊婦で収縮期血圧が 160mmHg 以上、または拡張期血圧が 110mmHg 以上の高血圧を認め、15 分以内の再測定でも高値が確認された場合には、30〜60 分以内に降圧治療を開始し、血圧を<160/<110mmHg にコントロールすることが推奨されます。これにより、子癇や胎盤早期剥離など重篤な合併症のリスクを減らす狙いがあります。
6.COR 1(強い推奨):慢性高血圧を有する妊婦(妊娠前から高血圧がある、あるいは妊娠 20 週以前に 140〜159/90〜109mmHg 程度の高血圧が確認されているケース)では、血圧を<140/90mmHg に保つことを目標とした降圧治療が推奨されます。これにより、母体および胎児双方の罹患率・死亡率を低下させられると報告されています。
7.COR 1(強い推奨):妊娠を計画している、あるいはすでに妊娠している高血圧患者に対しては、低用量アスピリンの服用が子癇前症およびその合併症リスクを下げる可能性があることを、医師がきちんと説明すべきとされています。妊娠期の血圧管理における「もう一枚の安全ネット」として位置付けられています。
(6)治療抵抗性高血圧と腎デナベーション:手術は「誰でも受けられる」わけではない
降圧薬を増やしてもなかなか血圧が下がらない「治療抵抗性高血圧」に対して、腎交感神経デナベーション(RDN)は、近年注目されている選択肢の一つです。ただし、誰にでも安易に行ってよい手技ではなく、「本当に必要な人を見極めること」が極めて重要だとガイドラインは強調しています。
8.COR 1(強い推奨):成人の治療抵抗性高血圧患者では、まず二次性高血圧の原因を丁寧に評価し、可能性のある原因を一つひとつ除外していくことが推奨されています。同時に、服用中の薬剤を洗い出し、血圧コントロールを妨げている可能性のある薬(例:NSAIDs など)を整理することも重要です。これによって血圧が改善するケースも少なくなく、治療内容をシンプルに保つことにもつながります。
9.COR 1(強い推奨):腎デナベーション(RDN)を検討するすべての患者は、「治療抵抗性高血圧」と「RDN」に関して十分な経験を持つ多職種チーム(MDT:循環器内科、腎臓内科、放射線科など)が評価すべきとされています。つまり、「血圧が高いから誰でも RDN」というわけではなく、適応の見極めが極めて重要です。
2025 年版 AHA/ACC 高血圧ガイドラインの更新は、「高血圧診療の精度と個別化」をさらに一歩進めるものと言えます。すべての人に同じ治療を当てはめるのではなく、患者さん一人ひとりの背景やリスクに応じて、よりきめ細かな選択肢を提示する方向に舵を切った、と理解するとわかりやすいかもしれません。
この解説が、新しいガイドラインのポイントを「自分ごと」としてイメージする一助になれば幸いです。高血圧と付き合っているすべての方が、科学的で無理のない血圧管理を通じて、穏やかで健やかな毎日を過ごせますように。❤️
